おつるねえ

最近、歳のせいか背筋力が弱ってきて、食事の時など気がついたら背中が微妙に丸くなってしまっていることが多い。

いかんいかん、と思って背筋をしゃきっと伸ばすと、頭の中で「おつるねえみたいやな。」という父親の声が響く。


“おつるねえ”というのは父の親戚で、若くして亡くなったらしく私は直接会ったどころか写真をみたこともない。
父が言うことには、「しゅうっとした別嬪さん」で、いつも姿勢がよくてどんな時にも背筋をまっすぐにして座っていたそうだ。
でも、ずーっとぼんやりした表情で黙り続けていたかと思うといきなり道端で着物の裾をからげておしっこをしたり、ということが多かった人でもあったらしい。

「portulacaは座ってる時の背中がまっすぐでおつるねえみたいやな」と言われると、それが姿勢が良いことへのほめ言葉であるとはわかっていても、一度も会わなかった「奇行のしゅうっとした別嬪さん」が思い起こされて、哀しいような苦しいような気持ちのベールに包まれたものだった。

今になって、彼女がどのような一生をおくったのかもう少しよく知りたいなぁ、と思っても、質問を向ける先である父親も既におつるねえの近くにいるので、多分もうわからない。


これからも何の気なしに背筋を伸ばすたびに「おつるねえみたいやな。」という言葉が頭の中で響き、哀しいような苦しいような気持ちのベールにちょっとの間だけ包まれる、ということが繰り返されるのだろう。