メモ:原発事故の責任問わず 菅元首相ら全員不起訴

NHKニュース 2013年9月9日付
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130909/k10014394291000.html


東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡って告訴・告発されていた東京電力の旧経営陣や菅元総理大臣など40人余りについて、検察当局は刑事責任を問うことはできないと判断し、全員を不起訴にしました。

福島第一原発の事故では、多くの住民が被ばくしたほか、周辺の病院に入院していた患者の中には、避難する途中に亡くなった人もいました。
こうした被害について、福島県の住民グループなどが「事前の津波対策や地震後の事故対応が不十分だったためだ」と主張して、法人としての東京電力と勝俣前会長や清水元社長ら旧経営陣、それに政府の責任者だった菅元総理大臣など40人余りの刑事責任を問うよう告訴や告発を行い、検察当局が捜査を進めていました。
深刻な原発事故の捜査は、検察にとって初めてで、高い放射線量に阻まれて本格的な現場検証ができませんでしたが、巨大な津波を事前に予測できたのかという点を中心に、専門家からも幅広く意見を聞いて刑事責任を問えるかどうか検討を続けてきました。
その結果、「当時は東日本大震災規模の地震津波を予測できていたとはいえない。地震後の対応も含め刑事責任を問うことはできない」と結論づけ、全員を不起訴にしました。
告訴・告発したグループは、不起訴は納得できないとして検察審査会に申し立てる方針で、今後、刑事責任を問うかどうかの判断は検察審査会を構成する市民に委ねられることになります。

検察のこれまでの捜査
東日本大震災から1年余りがたった去年6月、甚大な被害を招いた原発事故について、福島県の住民などが東京電力の旧経営陣らの刑事責任を問うよう求める告訴状や告発状を検察当局に提出しました。
この告訴団には、全国の1万4000人以上が加わりました。
さらに、別の団体からは、事故後の対応を巡って菅元総理大臣など政府責任者に対する告発も行われました。
これを受けて検察当局は、去年8月、捜査を開始。
しかし、検察にとって自然災害をきっかけに起きた深刻な原子力災害の捜査は初めてで難しいものとなりました。
事故原因の特定に欠かせない本格的な現場検証が高い放射線量に阻まれてできませんでした。
現地を指揮し、ことし7月、病気で亡くなった福島第一原発吉田昌郎元所長からも体調不良のため話を聞けませんでした。
こうしたなか、検察は、東京電力の勝俣前会長や当時の原子力安全委員会の班目元委員長らの任意の事情聴取を重ね、捜査を進めていきました。
刑事責任を問うには、東日本大震災クラスの津波を現実的な危険として予測できていたことの証明が必要です。
このため、地震津波の専門家からも幅広く意見を聞いて、当時の共通認識として、どれぐらいの規模の津波の対策が必要とされていたのか詰めていきました。
さらに、菅元総理大臣など当時の政府の責任者にも震災直後の対応について説明を求めました。
これに対し、菅元総理大臣から、先月、「対応に問題はなかった」とする意見書が提出され、検察は直接の事情聴取を見送りました。
告訴・告発されたうち、いくつかの容疑の時効が半年後に迫るなか、検察は、今後、検察審査会に申し立てられる可能性も考慮して、このタイミングで捜査を終結させ不起訴という結論を出しました。

東京電力コメント
東京電力は、「原発事故によって福島県民をはじめ多くの方々に大変なご迷惑とご心配をおかけしたことに改めて心からおわび申し上げます。
今回の不起訴については検察当局のご判断であり、当社としてはコメントを控えさせていただきます」としています。

住民からは不満の声も
検察当局が東京電力の旧経営陣や菅元総理大臣など40人余りの全員を不起訴にしたことについて、今も町の全域が避難区域となっている福島県浪江町の人たちが暮らす福島市内の仮設住宅では、不満の声が上がる一方で、責任の追及よりも今後の生活再建に向けた取り組みを早急に進めることを求める声が聞かれました。
このうち、70代の男性は「検察は現場検証すら行っておらず、被災者の気持ちを理解していない。
これだけの大事故を起こして刑事責任を追及される者が誰もいないというのは納得できず、早く責任の所在を明らかにしてほしい」と検察への不満を語りました。
また、別の70代の男性は、「当時の関係者だけに責任追及しても難しいと思う。
原子力発電所の設置を許可した政治家など過去にさかのぼって責任を追及する必要がある」と話していました。
一方で、60代の女性は、「総理大臣が代わっても国には事故の責任がある。
事故から2年半がたっても仮設住宅での生活が続いているなかで、責任の追及よりも生活再建をしっかりとやってもらいたい」と話していました。【民事上の責任は】
原発事故の民事上の賠償責任は、「原子力損害賠償法」に基づいて事故を起こした電力会社が負うことになっていて、今回の事故では、東京電力がこれまでにおよそ2兆8000億円を支払っています。
しかし、賠償額や対象地域の範囲などが不十分だとして、国の設けた紛争解決機関や民事裁判で争いになっているケースもあります。

事故調も調査 責任は評価せず
福島第一原発事故を巡っては、検察の捜査とは別に、国会、政府、民間、東京電力に設置された4つの事故調査委員会で検証が行われ、いずれも去年、報告書を公表しました。
この中で、事故の原因については、どの事故調も津波ですべての電源が失われ、原子炉を冷却できなくなったことなどを挙げていますが、国会事故調は、東京電力と規制当局が対策を先送りしていたことが根源にあると指摘して、「自然災害ではなく明らかに『人災』だ」と結論づけています。
そのうえで、事故前の津波対策について、国会事故調が「東京電力は事故の3年前に、東日本大震災と同じ規模の15.7メートルの津波を試算していたのに対策を取らなかった」と指摘するなど、東京電力を除く3つの事故調が、従来の想定を超える津波の危険性を認識できていたはずだとして、東京電力の安全に対する姿勢を批判しています。
これに対し、東京電力の事故調は「3年前の試算は仮想的なものだ。
当時は専門家の間でも意見が定まっておらず、今回の津波は想定を超えた巨大なものだった」としました。
しかし、自己弁護に終始しているとの批判を浴びたことから、東京電力は、改めて社内の特別チームで検証を行い、ことし3月「巨大な津波を予測することが困難だったという理由で、原因を天災として片づけてはならない。
事前の備えが十分であれば防げた事故だった」と総括しました。
一方、事故後の総理大臣官邸の対応については、民間以外の3つの事故調が、「総理大臣が当事者として現場に介入して無用な混乱をさせた」などと指摘しています。
このように、これまでの事故調などで行われてきた検証では、多くの点で厳しい批判や反省がされていますが、いずれも事故の原因を究明し再発を防止することを目的としているため、刑事責任につながるかどうかという評価は行われていませんでした。